CULrides カルライズ

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食べ蒔きトマトのフィードバック

さて、前回で全ての栽培を終えた当プロジェクト。

🌑食べ蒔き作物プロジェクト報告書🌑

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今回は一連を振り返り、栽培中に得られた実質的な収穫とは別の意味の「収穫」、すなわち「フィードバック」をシリーズ化して記して参ります。

何しろ一年弱続けて来た企画ですので、せっかくならば当プロジェクトを参照に、「こんな現象が起こりうる事例」の参考資料となれば。

それが食べ蒔きのみならず、通常の作物を栽培する際の一助でもなれれば、これ幸いなので御座いまする。


さて、先ず最初に結論から述べるに。


「食べ蒔き(実生)でも、やり方次第で育つし収穫が可能」


そう表現して間違いないでしょう。


この食べ蒔き、すなわち「市場の野菜から採種したタネ」では、いわゆるネット上の論評や世間的な通説では「まともに育たない」などとされており、ましてや試す価値すら無いと言う扱いなのが主流。

それは実際に正しく、これまでに先人が導き出した揺るぎ無い解答でもあります。

確かに当プロジェクトでの検証を振り返れば、元々の品種からかけ離れているであろう姿に育ち、そして果実の形や収量も安定感にはほど遠い結果となっていました。
その意味では、まさに「パターン」を踏襲していた事になります。


とは言え、この「元々のクオリティ」を抜きに評価した場合、少なからず美味しく食べられる物が収穫出来たのは事実。

勿論、市場原理と比較してしまえば「基準」に満たないものが大半であったとしても、いわゆる家庭菜園に限定した話であれば「許容」の範囲内。

それは即ち、食べ物として成立する事だけは実証された形となるはずです。


また、もう1つのコンセプトとして、如何にして「食べ蒔き作物の生命力を発揮」させられるか、そして「化学肥料と薬剤を極力使わない有機栽培」の融合が何処まで通用するか。

この様な目標も立てていました。


流石に一部の貧弱な株については、途中で枯れてしまったり、病害虫の被害を防げずにいたりなどで、「完全なるメイク」とは言い難い部分もありました。

しかし、それとてまるっきり無抵抗に過ごしていた訳では無く、アレコレ試行錯誤しながら、結果的には「全種類の作物が収穫まで生育を維持出来ていた」事も確かです。

あえて手前味噌に述べるなら、それだけ生命力や免疫力を引き出せていた事にもなるはずですし、概ね達成していた様にも思います。


そう、結局は「元々のタネと環境次第」ではあるが、育てるのは可能なのです。

後は、どんな工夫を凝らして行くかで、更にサイズや食味などの結果が大きく変わる事は間違いありません。


では、前置きが長くなりましたが、これまでの作物を個別に振り返ってみましょう。

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🌑トマト🌑

これまでに一番、記述量を割いてきたトマト。

それだけに思い入れも大きいが、先ずは端的に言うと食べ蒔きでの栽培は「可能」と言える結果となりました。


いずれの果実も食味としては良好で、中には市場の品種と比較して遜色ない仕上がりになるなど、安心して楽しめるクオリティを実現。

それら収穫物を一部抜粋すると、以下の様な具合い。

夏場の一部。
🌑ゴーヤと疑惑のミニトマトのレビュー🌑

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晩秋の一部。
🌑晩秋トマトのレビュー🌑

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実際の栽培にあたり、発芽や生育自体は割りと単純。
しかしながら手間をかける部分は意外に多く、要所で適切なアシストが必要となるシーンが散発する。

具体的な手順や論理的な部分は各リンクが参照となりますが、このフィードバックでは要点を掻い摘む形で、改めて述べて行きます。

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先ず、発芽にあたっては「卵パック」の空き箱を使い、一時に大量に生やす方法を採用。

この方式は、タネを一挙に纏めて同じ環境で発芽出来るだけでなく、蓋を閉じれば簡易式の「温室」になるので意外なほど発芽率が高いのがメリット。

当プロジェクトではトマト以外に、メロンやスイカの発芽にも使えた事から、卵パックは潰しが利くのでお勧め。
これは細かなタネの品種ほど管理し易くなるし、発芽後の仕分けも簡単で非常に便利です。

無事に発芽したら、次は根が生え揃うタイミングでポットなどに植え替えて、成長を促してあげます。


ただし、この春頃の発芽から苗の段階までは非常に脆弱である為、定植適期が来るまでの期間は引き続き「ホットキャップ」や「ビニール立て」での保温が必須となります。

特に苗の間は体力が乏しく、低温に晒されたり乾燥したりなどで急に萎れてしまう可能性があり、温度管理には注意が必要。
春を過ぎるまでは外気温が不安定なので、みだりに外へは植えない様に、ひたすら「生命維持」を徹底すべきでしょう。

この間の成長は非常に遅く、かなり徐々にしか伸びてくれないのでヤキモキさせられるが、焦らずジックリ見守りに徹するのがミソです。

🌑発芽行程 トマト・メロン編🌑

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更に定植前の準備としては、土壌を柔らかく耕しておき、根を伸ばし易くしてあげるのも大事な要素。
この根の成長率が株の成長率、そして果実の善し悪しにも直結する事となります。

それは前回の抜き取り調査でも明らかとなっているので、詳しくは以下のリンクをご参照頂ければと。

🌑土作り🌑

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🌑最後の抜き取り調査🌑

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苗の定植にあたっては、「日当たりの良い場所」がベスト。
この日照については、トマトに限らず当プロジェクト全ての作物に適用される要素でもありました。

実際、少しでも日陰となる場所に植えると明らかに成長が遅くなり、結実率が低下したり、また殆ど成熟しないなどの症状が確認されている。
要は、日照時間でも成長率が決まる上、果実の成熟度合まで左右されてしまう訳です。

従って、極力日当たり良好なスペースを選んで植えるのを大前提に、事前の準備を進めるべきでしょう。

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この条件を満たした場所を選んで、概ね梅雨明け前の夏の気候が顔を出す頃合いで定植すれば、気温の高まりと共にグングン成長してくれるはず。

その後は、余分な「芽かき」を施して養分の分配を調整したり、開花したら出来るだけ人工受粉させるなどマメにケアすれば、より充実した収穫に繋がるかと思います。

🌑定植🌑

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🌑7月上旬~中旬の様子🌑

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ちなみに今回は、芽かきで切除した大きく立派な脇芽は捨てずに「挿し木」として利用。

そのクローンを増やす事で、親株(オリジナル)が枯れた時の「予備」になってくれただけで無く、更なるシーズンの延長、そして収量アップに繋がってくれていた事も付け加えておきたい所。

夏までに株分けを済ませておけば、トマトの「二期作」も夢ではありません。

🌑トマトの挿し木🌑

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🌑7月下旬~8月上旬の様子🌑

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その一方、幾つか食べ蒔き栽培のデメリットを挙げるとすれば、やはり収量が安定しない事。
そして、元々採種した品種とは全然違うルックスに仕上がってしまう事です。

今回は結果として、「ミニトマト」ないし「小さい普通のトマト」のサイズが中心となり、元々のタネである「大玉(中玉)種」のトマトは収穫出来ず仕舞いでした。

過去に何度も触れて来た様に、これらミニトマトも含め当プロジェクトのトマトは全て、元々は「普通のトマト(大玉・中玉トマト)」から採種したタネから生まれたものだったりします。


「大玉種からミニトマトなんて生まれてくるの?」


と疑問に思われて当然ですが、実はネット上でも似たような例を発見しており、どうやら「両親」のどちらかにミニトマトが交配されている場合、希に「先祖返り」が起こるらしいのです。

この先祖返りなる現象は、当プロジェクトの作物全てで発生しているが、いずれも元々の品種とは違う姿形となるパターンが殆ど。
しかも、現状ではコントロールする術が確立されていない様で、全てはタネ任せに育てるしか無いのが実状。

故に、「見た事の無いトマト」が育ったとしても、「とりあえず食べられればOK」位の大らかなノリで育ててあげよう。

元より完全再現は難しいので、あまり気張らないのもコツ。
何にせよ、食べ蒔き栽培には「遊び心」も大事だと思う次第です。

🌑10月中旬~下旬の様子🌑

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それで、この「普通のトマト」の栽培について調べると、基本的にミニトマトより難しいとの論評が多く拝見されます。

実際、当プロジェクトにおいて「普通のトマト」は成熟が遅すぎるあまり病害虫や野生鳥獣の被害に遭う確率が高かった訳で、いずれにせよ難しさを実感する経過を辿っていました。
しかも、いざ成熟した果実の中身を確認したら、ほぼ「タネ無し」だった点で何やら示唆的でもあります。

結果的に収穫出来たのは全てミニトマトに該当するサイズであった事実を踏まえれば、今回は「ミニトマト的な品種の方が生存率が高い性質」だった。

と言う事なのかも知れません。

🌑8月下旬の様子🌑

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しかしながら、オリジナル株から株分けしたクローン株を作る内に、「複数のパターン」を発見出来たのは思わぬ「収穫」でした。

それらパターンが発現する条件としては、以下の要素が絡んでいるのではないかと推察しています。


・先ずタネの段階で、両親どちらかに先祖返りして、苗により「違う品種」の特徴が発現する可能性がある。

・それぞれの特徴として、ある株は「普通のトマト」、または「ミニトマト」、はたまた「その中間」などに分かれたりする。

・特徴が分かれる条件としては遺伝的要因以外に、外的環境も影響していると考えられ、それに適応する為、成長プロセスに変更を加えたりして複数のパターンを使い分けている可能性がある。

・特徴が分かれる理由としては、わざと「先祖返り」させるなどで異なる特徴を発現させ、性質が偏らない様にして種の生存率を高めようとしているのではないかと考えられる。

・脇芽などから株分けしたクローンも親株(オリジナル)の性質を引き継ぐが、この脇芽や枝葉ごとに生存率(主枝が折れた場合の代役や結実数の多さなど)の「優先順位」が決まっており、その順位次第でも特徴が微妙に変わる場合がある。

・この優先順位が高い方をクローンにすれば、成長率と収穫数も上がる。


これらの詳細なメカニズムに関する話は、以下のリンクでも仮説として記述しております。

🌑10月上旬の様子とゴーヤの収穫🌑

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🌑12月上旬~中旬の様子🌑

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無論、上記は当プロジェクト内で観察された現象を基にした仮説ではあるので、必ずしも全てのトマトに該当する訳では無いだろうし、学術的な検証がなされている訳でもありません。

故に、もしかすると実際は間違っている可能性すら否定出来ません。


しかし、当初は二種類のトマトを蒔き、たった4本の苗から株分けを繰り返す内に十数本のクローンへと派生し、その内の幾つかは「イケてる個体」だったのも事実。
そして何より、収穫した果実は全て普通に食用となるクオリティを実現していました。

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従って、仮にトマトの調子がイマイチで「上手く行かなそう」だったとしても、諦めずにパターンを探れば何かしらの切っ掛けでブレイクスルーする可能性は大いに有り得ます。

当プロジェクトでも、夏場の枯れや台風による折れなどで一度は諦める寸前でした。
しかし、その間にクローンを大量に増やしてトラブルを乗り切り、やがて晩秋には劇的な回復を遂げていたので、ここは是非とも粘り腰で収穫を目指して頂きたい所。


下記のリンクでも、残暑厳しい9月まではパッとしなかったのだけど。

🌑9月上旬の様子前編 カボチャの収穫🌑

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🌑9月中旬の様子前編 トマトとカボチャの経過🌑

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晩秋に入る頃には、見違えるほどのイケイケモードに突入してましたからね。

🌑11月上旬~中旬の様子🌑

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🌑11月中旬~下旬の様子🌑

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もしも普通に「育てているだけ」だったならば、単に「カオスなトマトになった」という認識だけで済ませていただろうし、いちいち長文で難しく述べる必要も無かったのかも知れません。

しかし、「何故そうなったかのプロセス」について検証を重ねると、また違う側面が顕になる事も多い。

とどのつまり、これら一連の「発見」も含めて「収穫」と言う事なのです。


うーん、何て超エラそうなのだ。

話を戻そう。


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もう1つ挙げたい問題点としては、いずれも病害虫や野生鳥獣の被害を受けやすい事。

今回、これらの受難を幾度も被っており、対策の難しさを実感するシーンが多くありました。

🌑8月上旬~中旬頃の様子と初収穫🌑

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🌑8月下旬の様子🌑

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🌑9月下旬の様子前編 トマトとモスラ🌑

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いずれも露地栽培では避けられない課題であるが、もし害虫や鳥獣対策を施すならば、やはり先ずはネットを被せる等の「物理的な隔離」が有効。

他には、「木酢液」や「唐辛子を煎じた焼酎」の水溶液を噴霧するなども、よく知られた手法でしょう。
※でも、木酢液ってかなりクセがあるらしく、賛否両論に別れるので本当に使えるのか謎が多いので、当プロジェクトでは未使用です。

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また、ウドン粉病については、「草木灰」や「苦土石灰」を混ぜて土壌を殺菌したり、これにより養分となるカルシウムを強化する方法が知られる所。
他には、土を丸ごと入れ換える等の手段なども考えられます。

当プロジェクトでは、ウドン粉病に対してキッチン用の「アルコール消毒スプレー」で一定の効果を確認しているのですが、これは次回のカボチャで少し触れる予定。

ちなみに、初期段階では少量の薬剤も土壌に投与してみたのですが、分量が少な過ぎたのか効果のほどは分からずじまいだったりします。

🌑肥料と薬剤🌑

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ただし、上記はいずれも大がかりな設備や薬剤に極力頼らない事を前提としているので、完全確実な対策とは言い難いのが実状。

更に、そもそもタネ自体が貧弱な場合、あまり施す意味が無かったり、大した効果が出ないシーンも有り得ます。

従って、これらの防除にあたっては、いわゆる「民間療法」的な手法を幾つか試してパターンを探るなど、複数組み合わせるしか思い付かないのが正直な所。

実際、これら防除の手法に関しては、人により「効果あり」と「効果なし」とで評価が分かれる事が多く、また使用するにも分量や成分にも微妙な違いがある事でしょう。

それはつまり、土壌の性質や栽培している品種によっても効果に違いが出て当然とも言えるはずです。


これを例えるならば、「外食チェーン」が全店で同じレシピを使っていたとしても、実は店舗ごとに微妙なバラつきがあるのと同じ事。

更に言えば、「あの店舗はイマイチだけど、ここの店舗はイケてる」と、食べる人と店舗との相性次第で評価が分かれる現象とよく似ています。

いずれにせよ、やらない事には判らない訳ですし、全く対策無しよりはマシなので、色々試す内に有効策が見えてくるかも知れません。

🌑ウリバエの防除に関する仮説1・被害状況と生命力🌑

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🌑ウリバエの防除に関する仮説2・野鳥農法を立案🌑

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🌑ウリバエの防除に関する仮説3・作物の生命力よ、再び。~愛を取り戻せ~🌑

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そんな訳で、トマトの食べ蒔きにおける要諦としては、以下の様になります。


・発芽から苗までは、保温と栄養補給に努めよう。

・日当たりの良い場所に定植し、積極的な生育を促そう。

・定植前には、土を出来るだけ深く広く柔らかく耕しておき、広範囲に根を張れるようにしておこう。

・元気な脇芽を挿し木してクローンを増やし、予備を幾つか用意しておけば、シーズン延長と収量アップが期待出来る。

・開花したら、なるべく人工受粉してあげた方が結実率が向上する。

・病害虫対策は、効果的とされる様々な方法を組み合わせてベストを探ろう。

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以上が当プロジェクトで実践してきた手法とフィードバックです。

まぁ、何の事は無く、結局は基本に忠実と言う話だったりして。

ご興味が湧きましたら、是非、食べ蒔きにチャレンジしてみては如何でしょうか。


次回は、カボチャの纏めに続きます。



では、また、 CUL。