CULrides カルライズ

発見と探究そして文化。そんな諸々の話。

生物の不思議シリーズ 極小ウナギの思い出

前回のウナギ、マグロ記事にちなんで、こんな思い出話を。

culrides.hatenablog.com



あれは小学生の頃。



確か1990~92年あたりの出来事であったと思う。


毎年、夏になると西伊豆の某所へ旅行する事が恒例となっており、それを夏の楽しみとして心待ちにしていた。


当時住んでいた場所も比較的緑が多かったのだが、それでも西伊豆の自然環境は圧倒的であり、夜の街灯には図鑑でしか見たことのないカミキリムシ、クワガタ、その他昆虫が次々に飛来し、その豊かな生態系に心を鷲掴みにされていたからだ。


勿論、昆虫に限らず水生生物にも多大な興味を抱いていた僕は、海や川にも積極的に繰り出し、それこそ未知の魚や生物を見つけては逐一、図鑑と比較していたのだった。



そんな中、例の旅行先の海岸にて、ある小川を網で掬っていた時の事。


その小川は急峻な山の斜面を伝う様に海岸へと注いでおり、川幅は約1メートル程、水深はそれこそ3センチにも満たない。
むしろ、川と言うよりは「瀬」に近い。


そして、陸地と海岸の境目は防潮堤で仕切られており、その小川は集落の側溝を通り、防潮堤の壁から海岸へ抜ける構造となっている。
つまり、傍目から見れば完全なドブ川とも表現出来るものだ。


その防潮堤と海岸(砂浜)の境目には堰の様な落差があり、そこに水が流れ込む事で「滝壺」の様な滞留場所を形成し、そこが川の最深部となる。


最深部とは言っても、やはり水深は80センチもあれば良い方で、範囲も約2メートル半径程度。


更にそこから海まで20メートルも無い距離である為、また一気に水深が数センチ程度の、瀬の様な流れになる。


陸と海から断絶されてしまった様なそれは、「大きな潮溜まり」とも言える佇まいだ。


※追記。
過去のデータを漁っていたら、少しだけ画像が出てきた。

防潮堤から、海岸を見た画。

イメージ 1

画像右手の船の裏手に、例の滝壺みたいな滞留場がある。


分かりにくいですが、赤線で引いた箇所が小川。

イメージ 2

周りの人との対比で、その規模が伝わるかも知れません。


しかし、そんな狭い最深部にも関わらず、イナッコ(ボラの稚魚)やフグを始めとした魚類が泳ぎ回っており、更に水底には小枝や葉っぱが堆積し、その周りにカニ等の生物が集まっているのが目視出来た。


そこへ水網(柄の付いた水中用の大きな虫取網)を投入し、堆積物ごと掻き回す様に掬い上げ、バケツに投じる。


バケツには判別不能な稚魚や生物が色々と入っており、その中にはイソヤムシと言うプランクトンも入っていて、「何てキテレツな形の生物なんだ」と興奮した事を覚えている。


そして更にその中に一匹、不思議な魚を発見した。



それがウナギ。



しかし、確かにウナギなのだが、体長が4~5センチしか無い。


その見た目は真っ黒で、ほぼ成魚と同様の姿である。


最初はドジョウではないかと思ったのだが、家で飼っているドジョウとは口の形が明らかに違うし、そもそも気水域に生息するとも聞いた事がない。
アナゴだとしても、こんなに小さい種類は図鑑に載っていない。


結局、その当時は詳細な知識なども無く、単に「極小ウナギ」が捕れたと言う感想を抱いただけで、写真も撮らずにリリースしてしまったのだが、それ以降、同じ場所で捕獲する事は無かった。


あれから思い出す度に、「新種ではないか?」などと考えたりもしたのだが、今にして調べた限り、あれはシラスウナギが成魚へ変化する「境目」であった事が想像出来る。


要は、単にウナギの「幼魚」が捕れたと言うだけの話ではあるのだが…。



しかし、それより疑問なのが捕獲された場所である。


勿論、釣りを覚える様になってからは、都市部にある様なドブ川や、大潮の干潮時には干上がってしまうような川にもウナギが生息している事を知るようになり、実際にその様な河川で釣ったりもしている。


また、同じ西伊豆の別の場所でも、昼間に川幅約3メートル、水深約15センチ程の水位の小川を泳ぐ姿を目撃しているので、想像以上にタフで生息域が広い事も実感している。


それこそ、メディアで見る様な漁場や、スーパーで売られている姿しか知らない人々からすれば、想像もつかない様な場所にも生息しているのだ。


しかし現在の所、ウナギは「生まれた河川」に戻ると言われている訳だが、まさかあの小川で親魚が育ったとは思えないし、まして広い河川など沢山ある中、何故あの様な狭い場所にピンポイントで辿り着いたのだろうか?


それは、例の漁村(又は防潮堤)が完成するより以前には普通に生息していたと言う「名残」なのか?


ある程度まで成長した場合、そこからまた移動するのだろうか?


あるいは、そのままあの場所で生育していく事は可能なのだろうか?


そして、あのウナギはその後どうなったのだろうか?


疑問は尽きないが、単純に考えれば、何かしらの理由で迷い込んだものと見るのが妥当なのかも知れない。



しかし、もしこれがあのウナギの「狙い」だったとしたら?


意思の有る無しは別にして、あの場所に辿り着いた「必然性」があるとしたら、それは何だったのか?



何れにせよ、生物はこうした「実験的な経験や変化」を経て、適応したり進化したりを繰り返しているのだろう。


そう考えると、あの時の「極小ウナギ」があの狭小な環境に適応しようとしている過程なのだったとしたら、もしかしたら本当に「新種」の誕生を目撃していたのかも知れない。



そんな幼き頃に体験した、生命の不思議話でありました。



大袈裟に話膨らませ過ぎですね、ハイ。


また伊豆に行った時にでも、あの小川を見に行ってみようかな。