思い出した時に綴る、メリケン道中記シリーズ。
その1
その2
過去のメリケン道中記において、ロサンゼルスの公共交通がクセモノである事は折に触れて来た通り。
特に、バスの運転士はキャラクターにムラがあり、日本であれば大炎上必至の対応を見せる人もいる。
また、そんな環境故に乗客も一癖ある人が多く、やはり日本では想像だにしないハチャメチャな奴に遭遇する事も度々。
こちらも過去の記事で触れた通りだ。
それもこれも含め、様々な状況に対応するアドリブ力が試される場合も多い訳で…。
そんな週末のある日。
例のごとくバスで郊外から帰ってきたのだが、そのバスは何故か終点のUNION駅まで行かず、だいぶ前のダウンタウンのど真ん中で停車した。
何事かと思っていると、「定時だからサービス終了すんよ。みんな降りて」と、アナウンス。
え、定時って…アナタが?このバスが?
確かに、週末は運行しない区間も多く終電時刻も早くなるのは知っていたが、途中で止まるとは。
いや、むしろバスのスピードなら終点までは目の前な訳だし、尚更最後まで運行して欲しいものだが。
他の乗客も、まさか「定時」と言う理由で途中で降ろされるとは思わず、「何だ何でだよ!」と詰め寄る。
しかし、運転士は「サービス終了時刻だから無理なものは無理。降りた降りた」と、極めてドライもん。
今で言う塩対応である。
これと同様にショッピングモールでも、閉店時間が近付くと「なぁ、帰ってくれないか?閉店の時間なんだけど」と、半ば店員に追い出し気味な対応をされる事もある。
そう、ここはアメリカ。
「労働者の権利」を行使するのは当然。
まさに「お客さんにも要求する」事が当たり前の感覚なのだ。
とまぁ、サービスが停止したバスは動くハズもなく、皆呆れつつも降りてトボトボと歩き出す。
唯一の救いは、ここがダウンタウンのど真ん中であるので、まだ電車が使える事か。
もっとも、僕の滞在先はここから徒歩圏内ではあるので、帰るには全く問題無いのだが…。
そんな中、その降りた乗客の中に、ひときわ困惑気味の青年が一人。
何やら頭を抱えながら、携帯(スマホ)を片手に「マジか参ったどうする」と言わんばかりの表情だ。
その彼はしきりにキョロキョロと周囲を見渡すと、何故か僕に話かけて来た。
見た目、年齢は20代前半で、どこにでもいる普通のラテン系の若者である。
若者「なあ!このバス何でここで停まったんだ!?クソ、マジどうすりゃいいんだ!」
何やら一方的に捲し立てて来る若者。
どうやら、終点から更に向こうに用事があると見て返答してみる。
僕「いやぁ、ここで運行終了らしいけど…何処に行きたいんだ?」
若者「いや、違う!そうじゃなくてくぁwせdrftgyふじこ」
僕「何?早くて良く判んないから、ゆっくり喋ってくれ」
只でさえ英語力たったの5しか無いゴミレベルの僕には、彼のスペイン語訛りで早口に捲し立てる英語は聞き取りが難しい。
とにかく、簡単に喋るように促すが…。
若者「だから\@%##&?/だっての!!わかるか!?」
僕「いや、わかんねぇって。何だ?帰れないとか?どこ行くつもりだ?」
若者「違う違うそうじゃない!!あークソッ%〒㍉£℃$なんだよ!!」
全くもって鈴木雅之モード。
一体、何がしたいんだ。
いや、会話が通じないなら他の連中に聞けばいいではないか。
全く意図が読めない。
若者「えーと…そうだ、お前は韓国人?中国人?」
僕「いや、日本人」
若者「オーケー、ちょっ、ちょっと待ってくれ」
と、スマホをいじり出すと、翻訳アプリを開いて猛烈な早さでスペイン語で何かを書いている。
若者「これ!これ聞いてくれ!」
そう言って、スマホを僕の耳にかざし、翻訳ボタンを押せと促される。
言われた通り操作すると、アプリが喋りだした。
翻訳アプリ「あなたの名前を、教えて下さい」
僕「名前?×××だ」
若者「オーケー、俺は△△△だ。次、これを聞いて」
翻訳アプリ「あなたは、??????を持っていますか?」
僕「うん?この??????って何?翻訳出来てないぞ」
この「??????」とはどうやらスペイン語なのだが、その一語だけ全く変換されておらず、意味さえ見当も付かない。
当然、どんな響きの言葉であったかも覚えていない。
若者「ッデーム!!だから??????だよ!!もっかい聞け!」
翻訳アプリ「あなたは、??????を持っていますか?」
僕「だから翻訳出来てねぇっつーの!これ英語では何だ!?英語で!」
若者「あ゙~~クッソ!マジかよ一体何なんだよ!何でアレわかんねーんだよ!」
だから「アレ」って何なのだ。
この時、僕は思った。
もしや彼は良からぬ事でも企んでいるのではないかと。
コミュニケーションを取れないのが分かった段階で、他の連中に聞けばいいだけの話。
むしろ、この周りはラテン系だらけなのだから、そちらの方が明らかに好都合だろう。
ましてや、自分の携帯電話を持っているのだし、知り合いでも何でも連絡を取れるはずだ。
何がしたいのか全く判って貰えない相手に固執する理由は無いだろう。
しかし、なおも絡み続ける若者。
徐々に不信感が募る。
僕は早く帰りたいので、歩きながら会話を進める事に。
若者「えーと、所でお前、何人だ?韓国人か?」
僕「(さっき言ったろーが)日本人…」
若者「そうか、なぁ、お前喉乾いてないか?何か飲もうぜ」
僕「喉?乾いてねーよ。別に飲みたくもないし、金も無いね」
若者「いや、何か飲もうぜ!つーか金ないなら俺が買ってやるよ!心配すんな!」
僕「要らねぇっての」
若者「だから心配すんなよ!俺が買うっつーの!!そうだホラ、あのコンビニ行こうぜ!」
と、すぐ目の前にファミマがあったので、飲み物程度ならと流れでとりあえず入る。
ちなみに、このファミマとは日本のファミリーマートのアメリカ版なのだが、何故か店名は「FAMIMA!!」と略語で、語尾に「!!」が付く。
店内は日本のコンビニ式が強く反映されており、食品もオムスビや寿司、日本のお菓子も豊富に揃えている。
カウンター横にもホットスナック(ファミチキは無いけど、ナゲットやミニタコスがある)が充実しており、中々楽しめる。
大きな違いと言えば、「黒」を基調とした外観と内装を採用している点か。
どこかスタバなどのカフェを彷彿とさせる、落ち着きのある装いである。
※しかし最近、アメリカから撤退する事になったらしい。
その飲み物から、目に付いたこれまたアメリカ版UCCの缶コーヒーを手に取る。
彼が何を買ったかは覚えていないが、多分エナジードリンクだろう。
僕「とりあえずサンキュー…」
若者「あぁ飲んでくれ!」
僕「カシャッ…ゴクゴク…」
若者「なぁ、腹減ってないか?メシ食おうぜ!」
僕「っ!?メシ?」
若者「まだ夕飯食ってないだろ?だから食おうぜ!」
僕「いや、だから腹とか減ってねぇよ。自分で作るし止めとくわ(つーか、早く帰りてぇ)」
若者「だーかーらー心配すんなっての!!俺が払うから!!ほら、ここ入ろうぜ!この店!!」
と、やはり目の前にあったメキシコ料理店を指差す。
料理店とは言っても、ロサンゼルスのダウンタウンでよく見られる定食屋であり、いわば「汚なシュラン」とも形容出来る佇まいの店だ。
一瞬、あまりレストランらしい場所も行って無いし、奢ってくれるなら試しに食ってもいいかとも思うが…。
しかし、こちらが断ってもなおも意味不明に絡む若者。
今度はメシと来たが、こちらは既に不信感の限界だ。
いい加減嫌気が差してきたので、とりあえず一言物申す事に。
僕「…なあ、何でお前は付いて来るんだ?何が目的なんだ?俺じゃ会話成り立たないだろ?だから他のヤツらに色々聞いてみろよ他のヤツにさ。メシも自分で作るし、要らねぇから。俺は帰りてぇんだよ」
つたない英語で一気にそう伝える。
すると、一瞬呆気にとられた表情を浮かべるが、不服そうながら渋々と納得した様子の若者。
若者「あぁもう…そうか…分かったよ。俺はこの店に入るから…。ここでお別れだ。じゃ、ありがとな。」
そう言うと別れ際に、「アメリカ式の握手」(お互いの拳を掌をリズミカルに叩き合うアレ)を求めて来たのだが、イマイチ勝手が判らずマゴつく僕に「あーもう…これも分かんないのかよ…」とでも言いたげな「呆れリアクション」をかまされる。
内心、呆れたいのはこっちの方なのだが。
しかし、ついぞ何が目的か判らず仕舞い。
一体彼は何者だったのだろう。
こうして若者と別れた後、滞在先にて夕飯を作りながらこの件を他の住人に話してみると…。
住人「それは…もしかして彼はゲイだったんじゃないかな?」
僕「え…ゲ…!?いや、まさかそんな感じでは…」
住人「私はその場には居ないから実際の所は判らないけど、そんなに熱心に絡んで来るなら可能性はあるね」
僕「えぇ~…」
そんな想定外の指摘に面食らうと同時に、ふと冒頭の市営バスの車内で覚えた、「スペイン語の注意書」を思い出した。
後方ドアの丁番の周囲には、開閉時の巻き込み事故を防止する為、可動部に触れない様に上下に長い手すりの様な形状の防護パーツが取り付けられているのだが、その上には虎テープ(立入禁止の場所を塞ぐアレ)と共にこんな注意書がある。
「NO SE AGARRE DE LA BARRA」
その意味は。
「この棒を握らないで下さい」
一言断っておく。
僕はノンケだ。