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メリケン道中記 LAの公共交通で遭遇した人々番外編6 つれないオフィサー

これまでに何度か、ロサンゼルスの公共交通で遭遇した人々について色々と語ってきました。


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どちらかと言えば、これまでは自分の乗っている「車内」で起きた出来事の話が中心でありました。

無論、そうでなくとも、普通の町中でもハチャメチャなシーンに遭遇したりする事など日常茶飯事。
そして、それに対する人々も、時に予想外の「反応」を示す時がある。


今回は、そんな町中で遭遇した出来事の一つ。

ちょっと番外編的な感じで、公共交通の「外」から目撃した、とあるバスの異変。

そして、それに対するポリスメン(オフィサー)の反応に、些かカルチャーショックを受けたお話しです。


例によってオチは無いけど、この記事に併せて描いてみた「ゆるイラスト」をお供に、お暇な人は見てやって下さいな。




ある日の夕方近く。

滞在先に帰ろうと、ダウンタウンの周辺を歩いている時の事。



坂道の下り道に差し掛かった時、僕が歩いている目の前を、一台の青いバスが登りつつ通り掛かろうとしていた。


そのバスは、僕の歩いている進行方向とは、逆方向へ向かっている。
つまり、すれ違いに走っていたのだが、視界に入るバスを不意に見やると、その「表示」に一瞬で釘付けになる。


何故なら、バスのフロントガラス上部に表示されている電光表示に、あらぬ「メッセージ」が映し出されているのだ。



通常なら、表示盤には「○○○番 XXX通り行き」など、その行先が映し出されている。



しかし、その時に表示されていたのは、「CALL 911」。



そう、「警察に連絡して下さい」だったのだ。



それに気付いた一瞬の間に、バスは僕の横を走り抜けて行く。

思わず振り返り、その後方部の電光表示(フロントと同じく番号が出ている)を見ると、やはり「911」と出ている。


特に説明する必要も無いかもしれないが、この時の様に、車内で事件に相当する事案が発生した場合。
運転士の判断でボタンを押すと、自動的に表示を「緊急事態」へ変更し、車外の人々へ知らせる機能が付いている。

要は、それを「見た人」が警察へ通報する流れとなるのです。



とは言え、ガイドブックや噂には聞いていたが、まさか本当に目にするなど思ってもいなかったので、流石に二度見どころかガン見してしまう。

そのバスについて言えば、殆どすれ違いざまの一瞬だったので、流石に車内の様子までは伺えなかった。
しかも、走って行く先が坂道の「向こう側」であったので、早々に視界から消えてしまっている。

ただ、心なしか通常よりやけに速いスピードを出していた様な印象ではあった。



となると、もしや、これは・・・。



恐らくは、車内で何かが起きているに違いない。



そう直感するに至ると、取り敢えず手近な所に警官が居ないか探してみる。


補足しておくと、ダウンタウン周辺は治安が悪い事もあって、実は保安官(シェリフ)ないしは警察が、パトカーで一帯を常時巡回している。

あるいは、その辺のカフェやファーストフードでマッタリしていたり、中には競走馬みたいな立派な馬に股がって、歩道を巡回している「騎馬警察」まで存在するくらいである。

その為、電話せずとも町を歩くだけで、比較的キャッチしやすい環境にあるのだ。



しかし、そうそうタイミングよく現れるはずも無く、早くもどうすべきか思案してしまう。

正直に言えば、この人通りの多い地域を走っている訳だし、誰かしらの目に留まるのは間違いなく、僕が何かしなくても誰かが通報するのでは無いか。
一瞬、そんな風にも考えた。


しかし、かと言って緊急事態らしき様子を見たままスルーするのは忍びなく、何だか後味も悪い。
他に出来る事は無いかと考えていると、ある事に気付く。


このダウンタウンにはLAPD(ロサンゼルス郡警察)の「デポ」、いわゆる地域を管轄する大きな「署」がある。
そして、それは今この場から近く、目と鼻の距離にあるのだ。


そうだ、そこに直接言ってみよう。

早速、その足で向かってみる事に。



程なくして警察署の敷地内に到着すると、取り敢えず話し掛けられそうな人物を探す。

建物から出てくる人に的を絞り、その中から「スーツ姿」の人物に話しかけてみる事に。
理由は特に無いが、何となく署内で立場がありそうだとでも思っていたのだろう。



まず一人、建物から出てきたのは、黒人の男性警官。

長身でガタイが良く、メリケンらしくティアドロップのグラサンを掛けている。
あえて例えるなら、映画ターミネーターのスピンオフ・ドラマの「サラ・コナー・クロニクルズ」に出ていた、警官になったダイソンの息子にクリソツ。


スーツの胸ポケットにはネームプレートが下げられており、確かにLAPDの「中の人」の様である。
片手には、コーヒーショップのタンブラーか何かを持っているが、休憩中だったのだろうか。

取り急ぎ接近し、話しかけてみる。



僕「あの、失礼」


警官「あぁ・・・何か」


僕「あなたはLAPDの人?」


警官「そうだが」


僕「OK。つい今しがた、[Call 911]と表示しているバスがいました。こう、車体の上に」


目撃した内容を伝えようと、ジェスチャー交じりに状況を説明する。


警官「ふーん…そう…。で、どんなバス?」


僕「えーと、全体がブルーだったから、多分、ビッグブルー・バスかと」
(※ビッグブルー・バスとは、郊外まで直通運行している中距離系のバス)


警官「ふーん…そう…。どこで?」


僕「(何かリアクション薄…)○○ストリートを、丘の向こう側へ走って行きましたね」


状況が伝わっているのかいないのか、思いのほか無表情なオフィサー。
いまいち反応が薄い中、説明を続けるが。


警官「そう…分かった。協力どうも」


僕「はぁ、はい…(あれ…何処にも連絡しないの…?)」



そう言うと、彼はタンブラーを持ったまま、何処へともなく歩いて行く。

イメージ 1


しかし、特に仲間に連絡する様子は無く、何だか終始適当に流されている感が否めない。


もしや非番なのだろうか?

いや、本当に休憩中だったとして、そこは勤務外だからノータッチと言う扱いなのか。
あるいは、実は管轄外だったのではないかと、色々な臆測が過る。



あまりに手応えが無かったので、念の為もう一度、すかさず別の人物に声をかけてみる事に。


今度は白人の女性。

やはりスーツ姿であるが、ネームプレートを見ると職員の様である。
一応、手ぶらで現れたので、休憩中では無さそうだが。

そして、男性警官の時と全く同じヤリトリを交わすと。



女性「分かったわ、件は伝えておきます。教えてくれて有り難う」



と、今度は割合と普通のコメントを貰う。

が、やはり仲間にトランシーバーや電話で連絡する様子は無く、そのままスタスタと町の何処かへ歩いて行く。



何だろう、この緊迫感の無さは。

もっとこう、颯爽と巡回中の誰かに連絡を入れるものとばかり思っていたので、何だか拍子抜けした気分になってしまう。


もしや僕が、話し掛けた人物を間違えていたのか。
それとも、この場合は制服を着た警官か保安官を当たるべきだったのか。


考えてもサッパリ答えが見つからず、結局、いまいちな感触のまま報告を終えてしまう。

後は、この女性警官の言葉を信じるのみ。
やるべき事はやったと思うしか無いのであった。



あれから、そのバスが如何なる顛末を迎えたかは、ついぞ分からず仕舞いである。


しかし、一つ分かっているのは、このロサンゼルスでは事件が多すぎて、余程の大事では無い限り、驚いたり大袈裟なリアクションをする必要が無いのだろうと言う事。

それは、これまでに遭遇してきた人物達、そして周囲の人々を観察していて常々実感する部分でもある。



きっと、もしかしたら「Call 911」と言うのは、そんな「ありがち」な出来事の一部なのかも知れない。


そう思うと、あの時の警官達のリアクションも、妙に府に落ちるのであった。



いや、本当は府に落ちちゃいけないんだろうけどね。

そこは、お土地柄と言う他無い訳なのです。




では、また、CUL。