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メリケン道中記 サウスセントラルの治安

以前にもサウスセントラルについて触れたが、今回はもう少し補足的な意味で記述してみたい。

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位置としては、ダウンタウンより南西から南側一帯の地域。

システムマップより。

イメージ 5


具体的には地図上の中央、ダウンタウンからロングビーチを上下直線で繋ぐ「メトロブルーライン(青色の線)」と言う電車と、それに直角で左右に交差する「メトログリーンライン(緑色の線)」の沿線地域を基点に拡がる一帯。

また同じく地図上の左上にある、最近開通した「メトロ・エキスポライン(水色の線)の沿線から下の一帯。

更に地図上の中央、ブルーラインと平行にハイウェイを走る特急バス「メトロシルバーライン(灰色の線)」の、やはりダウンタウンからの南側沿線。


概ね、これらがサウスセントラル地区を通過する沿線となっている。

ただし、上の図は広域的に表した一例なので、実際に定義付けられるエリアとしては、この画像の中央寄りに絞られるのが通常の様である。



さて、端的に言えば、上記の沿線地域は全て「治安が悪い」。


その治安について、他の地域との違いがあるとすれば、「排他的な要素」が強い事であろうか。


理由として、路線や地域によって人種間の偏りが極端で、明らかに「住み分け」られているからだ。

その為、ある駅ではラテン系中心で、ある駅を通過すると黒人しかいない。
と言う現象が起きる。



特に、黒人の居住区に危険地域が集中する傾向が見られ、他の地域とは一線を画する空気感に包まれている印象。


その傾向を象徴する一端として、ブルーライングリーンラインを繋ぐターミナルである「ウィローブルック・ローザパーク駅」では、改札口にメトロ公社の保安官が常駐しており、無賃乗車が出来ない様に目を光らせている。

実は、メトロは基本的に無人駅で自動改札しか無く、やろうと思えば容易に無賃乗車が出来てしまうのだ。


それを取り締まる為に、時折、抜き打ちで保安官が車内を巡回し検札(改札)しているのだが、改札口で「常駐」を行っているのはメトロ各駅でもここだけであり、それだけ無賃乗車率が高い場所である事を示している。



そして、いずれの地域にも共通するのが「貧困」と、それに並行した「閉塞感」である。


この背景としては先ず、基本的にこれら地域は広大な住宅街で、近隣に殆ど産業や仕事が存在していない事が関係しているものと考えられる。
仮にあるとしても、町の中心部や離れた地域などと場所が限られているので、何をするにも車なりバスなりで生活圏外から出なければならない。

しかし一方、この地域出身である事は、即ち所得や学歴などにハンデがあると言う事でもある。
然るに、外でも一種のハードルに突き当たってしまうだけでなく、そもそも出来る事や可能性まで限られてくるので、やはり生活水準を上げようがない部分がある。

また、ギャングが多い場所ゆえ、諸々の反社会的傾向が若者に引き継がれ、結果的にパーソナリティの問題を残すパターンもあるだろう。
その環境下に居る以上、もて余すエネルギーは必然的に暴力性や非合法な方面へと転嫁されてしまう事になる。

実際の所、地域住民も問題意識が無い訳では無く、これらネガティブ要因を払拭すべく、例えば個人単位での事業やボランティアを通じた形での啓蒙など、様々な社会活動が行われている話も聞く。

しかし、その根本には自ら置かれた環境と立場の間で、解決しようにもしきれない様な、ある意味では「そうせざるを得ないからこうなっている」様な、難しいジレンマを抱えているのが現実。

つまり、彼らの意識内には「ここに押し込まれて身動きが取れない」といった心理も内包されているのだ。


そんな連鎖反応による低所得と教育水準の低さが地域全体を覆う事で、やがて「公共意識の低下」を招き、その燻った感情の捌け口は時に「他の人種」や「他のグループ」にも向けられてしまう。
これは世界共通の傾向と言えるだろう。



そして、最も大きな違いだと感じた点が「住人のエネルギー」。

ダウンタウンのスキッド・ロウは、結果的に「全て失った人々の終着駅」とも言うべき場所である為、「主体的に外へ働きかける意志のエネルギー」が殆ど無い雰囲気でもある。

対して、この地域に関しては「まだ人間が生きている」ので、どこかギラギラとした「外に発散出来るエネルギー」が随所に感じられるのだ。


それを象徴するのが「電線の靴」であり、

イメージ 2

また、こういった落書きもそういった「外部への主張」を感じられる部分だ。

イメージ 1


これはイングルウッドで撮影したものだが、いわゆるグラフィティアートとしての落書きではなく、日本の暴走族と同じく「○○連合 ××會参上」と全く同じ意味を持つ。

更に、落書きの上に「×」をして別のチーム名らしき物が刻まれている所から、複数のグループが一帯に存在している事も伺える。


特に、メトロブルーラインに乗っていると良く車窓から見えるのだが、例えばVernon駅近辺の「38th Street」を通過する時などは、町の壁の至る所に「38th st」「38」と記されており、彼らがこの地域で勢力のあるグループである事が判る。

また、Florence駅周辺では、日本でも知られる有名なグループがおり、やはり町の壁に「F13」「FX3」としきりに書かれている。


日本でも、有力なチームが占める場所では同じチームの落書きをよく見るし、またある不良チームの落書きに×をして、別のチームが上書きしている画などを見るが、メンタリティー的には世界共通なのだろう。


余談だが、これら地域の駅を通過する際、稀に、外から電車内の誰かに向けて「ハンドサイン」を見せている人もいる。



当然、言わずもがなだが、これらの地域で降りる事は日中でも一切勧めないし、まして写真を撮影しているのが見つかった場合、スキッド・ロウ以上に身の危険が大きい。

何故なら、これら落書きや電線の靴が示す通り、このエリアの住人は縄張り意識が極端に高い傾向にあるからだ。

尤も、車窓から見てる段階で「降りちゃダメだ」と本能的に感じれる雰囲気ではあるが。



それを示すエピソードとして。


知人が、ある作家から「これら地域の撮影取材がしたい」との依頼を受け、案内を兼ねてコンプトン近辺を車で回っていた際の事。

イメージ 3



後方から急接近してきたパトカーに呼び止められると、「ここで何をしている!こんな良い車(車種不明)でウロウロしていたら襲われるぞ!!早く去りなさい!」と言われ、結局、その警官に先導される形で町から追い出されてしまったそうだ。


実際問題、警察官ですら毎年数名の犠牲者が出るほど危険なエリアである為、部外者を追い出すのは当然の処置と言える。



僕自身の体験としては、Crenshaw(クレンショウ)地区をバスで通過していた時の事。

イメージ 4

システムマップより。
クレンショウは地図上左下のエリア。


本来通過すべきMartin Luther King Jr通りが事故か何かで塞がってしまい、別の道から迂回する事に。

その道は、何の商店も特徴も無い、閑静な住宅街を貫く普通の道。


その走行中、突如として民家と民家の間から、10代半ばと見られる少年少女4~5名のグループが飛び出して来て、僕の乗るバス目掛けて一斉に何かを投げつけて来た。

あまりに突然の出来事過ぎてハッキリとは確認出来なかったが、それらは「白い袋に包まれた硬い何か」に見え、投げつけると「ボンッボンッ」と、車体側面や天井にぶつかる音がした。


しかし、こんな悪質なイタズラ?に遭遇しても、何故か運転士や乗客はチラっと見る程度にほとんどノーリアクション。

まさかよくある事なの!?


ごく一瞬の出来事で呆気にとられていたが、そのまま何事もなく普通にバスは運転を続行。
誰も何も気にする素振りが無いが…。


結局、あれが一体何だったのかいまだ不明なのだが、何かしら「メトロに対する意思」もある様に見えた。
今にして思えば、周りの乗客に訪ねておけば良かったとも思う。


滞在先に戻り、住人らに先の出来事を話してみると、ある人は、バスで走行中にライフルで狙撃された事があると言う。

その時は、流石に乗客達が一斉に頭を伏せる騒ぎになったものの、幸い大事には至らず。
ただ、撃たれた車体側面には銃創による穴が空いていたそうだ。


実際に「被害者」となってしまった例は身の回りに無いものの、こうして事件の話を聞く度、「明日は我が身」と思い知らされる物がある。


ついでに、事件とは関係ない話として、暇そうな若者グループの女性が、線路脇から電車に向かってパイオツを晒していた事もある。
これならいくらでも歓迎したいものです(下衆)



他にも挙げれば色々とあるのだが、上記を含めいずれも全て日中に起こった出来事である。

その点からも、このエリアではいつ、どこで、何が起こってもおかしくない事がご理解頂けるはず。



もちろん、日中の電車やバスの車内であれば、大きな犯罪に巻き込まれる「確率は低い」とは言えるし、実際、朝夕のラッシュ時は乗客が多く安心感もある。

しかし、「細かいトラブル」は頻発すると考えて良く、当然、「細かいトラブル」の数が増えるだけ「大きな事件」が起こる確率が高まるのは言うまでもない。



しかしながら以前と比較して、治安的な部分は大分マシになったのも事実。


数年前、ロングビーチでのライブの帰りに夜22:00頃のメトロブルーラインに乗車した時などは、どの乗客も「かなり怪し過ぎ」て全く気が抜けない状況だったが、最近は「普通の人」が多くなり不安要素がだいぶ減った印象。

ダウンタウンにも同じ感想を抱いたが、夜の電車に乗れたり、普通に人が歩いているのを見るにつけ、ここ数年で環境が向上したであろう事が伺える。


とはいえ、いまだ全域で見れば悪い状態である事に変わり無く、いずれのエリアも「安全に」人が歩いて移動出来る様な場所とは言い難いのも事実。

ちなみに、同じ地図上の右上に位置する「イーストLA」の一帯も危険な事で知られていたが、ここも再開発が進み一昔前より綺麗に整いつつあるものの、寂れていて人気が薄いのは確かなので、やはり夜間はオススメ出来ない。

この様に治安には地域差があり、更に西の海岸線や南側の端などのエリアは「他よりマシ」となる場合もあるにせよ、大抵は夜間になると途端に人影すら見当たらなくなるので、努めて日中だけの行動に留めるべきです。


従って、電車やバスで通過する際には、時刻表とルートマップを活用し、日の出ている内に帰宅出来る様、きっちり計画を立てて欲しい。



とにかく、先ずは自分の身は自分で守る。

それがアメリカにおける暗黙のルールなのかも知れません。



などとカッコつけてみたけど、無駄にブラブラ歩き回ったり買い物していた人間がゴタクを並べた所で、何の説得力も無い様な。



よく無事だったな、俺。