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生物の不思議シリーズ ミツバチの行動の謎 その3 細菌との共生に関する仮説

ミツバチの行動の謎を検証してみるシリーズも、地味に3回目。
一応、今回が最終回となります。


その1



次第に大袈裟な話に発展してきましたが、最後に忘れられない現象がもう一つ。
この水場で思い出した事があるのです。


それは、先の事故で改めてクローズアップされた、「ボツリヌス菌」について。
その仮説のお話しとなります。

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それで、何故ことのほかハチミツが、概ね一歳未満の幼児に与えてはならないと注意されるのかを考えた時。


ここまでのハチの習性を見る限り当然、花粉以外の「水」も生きる上での必需品としているのは間違いない。

また、このボツリヌス菌について少し調べた限りでは、自然界においては土の中以外にも、水中でも生息していると言う。

すると野生の環境下でのミツバチは時に、例の側溝に似た場所からも水を摂取しているが為に、結果として蜜にもボツリヌス菌が混入しやすくなっている。

と言う状況が浮上する。


そして、それは水質云々の以前に、菌が混在する要因が「複数」存在する可能性を意味している。

そこで更に、前回、前々回の仮説と絡めた場合。
彼らが「理想」とする「生育場所(水場)」は、すなわちボツリヌス菌にとっても理想的な環境となり得るのではないだろうか。

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これを他の生物で例に挙げるなら、カキのノロウイルスなどと似た原理かも知れない。

カキの漁場は、山の「栄養素」が豊富に含まれた「川の水」が流れ込む湾内である事が多い。
いわゆる海水と真水の混じる「汽水域」は、その栄養を餌にしているプランクトンが発生しやすく、また湾内は栄養が留まりやすい環境だからだ。

カキなどの貝類が、その栄養価の高い海で成長すると言う事は、同時にそれだけ多数の微生物や細菌に囲まれている事であり、必然的にそれらを吸収しながら成長する事になる。

釣りを嗜む人なら分かりやすいが、この周辺の岩場がビッシリとカキで埋め尽くされている場を見かけた事があるはず。

要は、生育に「メリット」が大きいからこそ、そこに存在する訳だ。


あるいは、同じ魚でも摂取している「餌」によって、体内に毒素(フグならテトロドトキシンフエダイなどはシガテラ)を生成(蓄積)してしまう個体がいる。

これらは、食べている餌に毒素が含まれている事に由来しているが、最近で言う「温泉フグ」の様に無毒化された魚が養殖出来るのは、この性質を逆手に応用した技術である。

だが実は、それらの魚は、その毒素をも含めて「好んで」食べている可能性が高い。
何故なら、その餌が本当に「嫌」なら食べないはずだし、もっと美味しく無毒な餌のある海域へ「移動」していても良いはずだからだ。

その理由は後述したい。


それで仮にもし、ハチミツにも同様の現象が適用されるのだとしたら。
今回のミツバチが集まっている、水の「合流点」の様な場所が上記の例と符号してくる。

つまり、彼らが住み良い環境と好みの餌(水)が噛み合う場所は、特定の細菌にとっても最適な環境。
そこへ集まってくる習性である時点で、必然的に体内に取り込んでしまうと考えられるのだ。

恐らく、ここの合流点はそれら条件を満たしている場なのだろう。

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だが、その一方ボツリヌス菌は、水中や土中にある時点ではいわゆる「種」の状態らしく、それはハチミツの中でも同じだと言う。
人の体内など、「酸素の少ない環境」で芽を出し毒素を発生させるそうだが、その辺は詳しくはググって欲しい。


ならば、ハチの成虫にせよ幼虫にせよ、水を飲んで「体内」に入るのは人と同じ事ではないか。
何故、それでも平然としていられるのか。
まさか、ハチの体内では繁殖しないし、毒素も生成しないと言う事なのだろうか。

例えば強い免疫力(耐性)であったり、あるいは「体温」や「腸内環境」の構造により、そもそも感染しない体質の可能性はある。
また、ハチミツ自体に強い「殺菌効果」がある事もよく知られている部分である。


しかし、ミツバチにとって本当に「不用」ならば糞や尿から排出するなり、自ら殺菌するなりして良いはず。
自分には無害だからとは言え、わざわざ無駄そうな物体を残す必要は無い。

それなのに、ハチには異常を来さないばかりか、幼虫にまで与えるしハチミツにも入る。
と言う事は、それで排出される訳でも無菌化する訳でも無い様だ。


正確には、ボツリヌス菌の滅菌には120℃以上の高温が必要との事でもあるので、そんな温度にミツバチが耐えられる筈も無く、単に「スルー」されているだけとも言えるのだが。


ただ、もし体内に留めても問題が無く、また殺菌も排出もしないままであるのに「理由」があるとしたら。


かなり拡大した解釈だが、実は何らかの理由があって「共生」している可能性も有り得る。

言わば、意識的であれ無意識であれ、「それ」が人間で言う「腸内細菌」に近い役割りを果たしている。
「他の病原体」などから身を守る為の、免疫機能の一つとして大事な意味があるのではないだろうか。

ちなみに、上記の例で述べたフグについては、「わざと毒素を体内に取り込む事で、免疫力を高めている」との研究結果があるそうだ。
そして、無毒の個体より有毒の個体の方が、抵抗力(生命力)が高いとも。

然るに、その力を得る為に、「特定の餌」を進んで摂取していると言う構図が成り立つのだ。


そう言えば、人間も腸内細菌を失うと、急に病気になったり体調を崩したり、また細菌の構成により「体質(性格)」そのものが変化すると言われている。
また、それが母乳などを介し子供へ「転移(遺伝)」する事で、やはり免疫力を付与し抵抗力が強化されている。

言い換えれば、ボツリヌス菌とはミツバチにとって、人間における「ビフィズス菌」に近い役割りを果たしているのではないだろうか。


基本的に野性動物の世界は、「不要」な事が存在しない。
逆に言えば、「必要」だからこそ成立する世界である。

つまり、彼らは細菌の毒素に助けられているからこそ、生きていられる。
これが無いと、根本的に生命の維持すら困難となってしまう。
それが則ち、「種の保存」に不可欠なサイクルなのだと。


故に、人間にとってボツリヌス菌が恐ろしいからと言って、周辺の環境から薬品散布などで「排除」してしまった場合。
あまつさえ「無菌化」しようなどと、生態系や身体機能を弄くり回してしまえば。

ミツバチは「本来の抵抗力」を失い、やはり生命の危機に瀕してしまうのかも知れない。

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ここまでの仮説を総合すると、以下の要項となる。


(1)ミツバチにとって「水」は不可欠である。

(2)どの水でも良い訳では無く、流れている場所や水質なども含めて総合的に、自らの「希望」が符号している環境を選んでいる。

(3)その水だからこそ、生きる上で必要な栄養素が含まれている。

(4)同じく、そこから細菌を取り込む事で、免疫機能を強化している。

(5)それら条件が全て満たされて初めて、生命を維持しながら種と世代を繋いで行く事が可能となる。

(6)ただし、環境変化や化学物質の流入により、「適地」と「健康」が失われ「循環」が止まってしまうと、やがて「存在」そのものが消失する。


以上となる。
案外、これらの仮説はあながち間違いでも無い様に思えるのだが、どうだろうか。



前回でも延べた様に、あくまでハチは終生において陸生の生物ではある。
だが、決して陸上の環境だけが全てなのでは無く、周辺の水場も含めた「相互作用」によって、その生態や「仕上り」が左右されている。

一連の現象は、その「習性」と「行動」が、「環境」と「要素」とで全て繋っている上での「結果」。
その全ては、必然性があるからこそ成立している。
反面、その「ピース」が一つ欠けるだけでもバランスを失う繊細な世界でもある。


しかし、それは人間とて例外で無いのは、ミツバチを始めとした身近な動植物達が証明してくれているのです。

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と、少し趣向を変えて段階的にお送りした、今回の「生物の不思議シリーズ」。

身近にいるメジャーな生物でも、表向き知られている現象のその「理由」について考察すると、新たな事実が浮かんでくるかも知れません。


とどのつまり何が言いたいかと言えば、「ミツバチって観察すると面白い」。


と言うお話しなのでした。



※ここで一つ、注意と言いますか、お断りしておきたい事が御座います。


この記事によって、「ハチミツが衛生的では無い」とか、「自家養蜂は止めた方が良い」、などと煽る気は毛頭ありません。

これら記事はあくまで「発見」の報告であり、それに対する「仮説」や「研究材料」として発信しているものであります。

一連のボツリヌス菌による食中毒事例は、あくまで管理や使用法が不運にも「適切」では無かったが故の事故であり、本来はそうそう発生する事案ではありません。

実際、僕はこれまでハチミツで当たった事も無ければ、少なくとも周りでも聞いた例が無いです。
むしろ、日々の生活必需品でさえある程、頻繁に食べるアイテムでもあり、無いと困る位です。

と言うより、それを気にしてしまうと、近海の生魚も駄目(基本的に幼児は生魚も駄目だとされているけど)となってしまうし、路地や有機で栽培した生野菜やら何やらまで駄目となってしまいます。
自然界にありふれた菌なので、本質的に避けようが無いのです。


言うまでもないですが、適切な使用法と対処法さえ知っていれば、実際は問題無い事がお分かり頂けるはず。
要は、基本的に「自然由来のナマモノ」は、個人の年齢や免疫力を考慮しながら、「工夫」して対処する物ですよと。
一時期、話題になったアニサキスが良い例です。


従ってくれぐれも、この記事を悪い意味で捉えたり、触れ回ったりしない様、お願い申し上げる次第です。

無論、この記事が学術研究に少しでもお役立て出来るならば、これ幸いな事であります。



では、また、CUL。