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メリケン道中記 LAで遭遇した人々7 テレホンモンスター

思い出した時に、記憶の限りに綴るメリケン道中記のお時間がやって参りました。


なにぶん記憶が基である当シリーズ。
いい加減ネタが尽きる頃ではあるとしても、やはり鮮烈な出来事や強烈な人物と頻繁に出くわす土地柄だけに、ふとした時に思い出したりするもの。

今回も、LAで遭遇した人々シリーズとなります。


過去の関連記事

その1 バイオレンス鈍行列車

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その2 どこでもハーブ

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その3 「アレ」な若者

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その4 バスとチャリンコのギャングスタ

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その5 ジェイル・ブレイク・シーズン1

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その6 つれないオフィサー

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※事後報告…これまでのイラストが幾つか纏まった事もあり、性懲りもなくインスタグラムを始めてみました。

これを期にタイトルを初期より変更していまして、更に若干の追記や修正も加えてあるのですが、内容自体は変わっていません。
もしかしたら今後、統一感を絞る意味で改めて変更が出る可能性は無きにしもあらずです。

インスタは現状、これまでのシリーズのダイジェストやおさらいみたいな感じなのですが、良かったらculridesで検索してみて下さいな。



そんな訳で、いつもは公共交通で遭遇した人物シリーズでしたが、今回は泊まっていた宿で起きた出来事のお話。

まぁ、言うほど奇天烈な話題でも無いのですが、やけに印象的な体験だったと言う事で、お茶でも飲みつつごゆりとご覧頂ければと思います。




振り返れば、あれはロサンゼルスに到着した当日の夜の事。
正確には、もしかしたら2日目か3日目かも知れないが、とにかく現地の宿に泊まった初っぱなの頃である。


その夜、僕は一人で机に向かい、日本から持参していたテキストとノートを開き英語を自習していた。

テキストの内容は至ってシンプルに、日常会話や発音の指南書その他を駆使しつつ、基礎文法や単語なども勉強する様にしていたのだ。


そんな勉強の折。



「…プルルッ…プルルッ…」


男性「あのな…!…から!…だよ!」



自室の隣から、しきりに着信音と男性の声が聴こえてくる。



聞いていると、誰かと電話で会話しているのだが、何やらモメている様な苛立った口調である。

僕は、隣室を隔てる壁とは真反対側の机に座っていたのだが、それでもハッキリと聞こえる程エキサイトしていて、それはそれで些か気が散る。


一応、補足しておくと、宿泊していたのはエコノミーな安宿なので壁が非常に薄い。
なので、部屋の間取りと位置によっては、耳を側立てずとも隣の声がクリアに聞こえてしまい、特に大声なら会話が筒抜けみたいな状態になるのだ。


また余談として。

例えばアメリカの安宿に長期滞在する場合、約10年前までは一ヶ月おおよそ500ドル前後であったのが、今回は約700ドルに値上がりしていた。
これを日本で言えば、家賃が月単位で二万円も上昇したに等しい。

聞く所によれば、ロサンゼルス近辺の再開発が進んだ事と人気の高まりに伴い、この数年間で地価が上昇した為、宿代(住居の家賃も高くなったらしい)が値上がりしていると言う。

従って、現在は設備や料金的に見れば、民泊の方にアドバンテージがあるかも知れませんが、もしビジネスで宿泊される際の参考までに。



話を元に戻すに、実のところ隣室の男性は、この出来事の前あたりに通路ですれ違っており、年齢は40歳過ぎと見られる白人系。

その身なりや会話の内容から、どうやらビジネスの出張で泊まっている様子であった。


そこまでは普通の事として、しかし、とにかく向こうの声が気になって仕方ない。



一体何が気になるかと言えば、会話の相手がしつこく電話を「何度も」かけてくる事だった。



流石に電話の音声までが聞こえる訳ではないけど、とりあえず男性と相手のヤリトリを台詞回し風に書くと、この様な具合いになる。



「プルルップルルルルッ…」


男性「なぁ、ハービー!もういい加減にしてくれよ!…だーかーらー、何度も言ってるじゃないか!…俺はまだ帰れないんだってっ!…会えないのっ!…もう切るぞっ!…ったく!」



かれこれ、以下同様のヤリトリが幾度も繰り返されている。



この様な感じで、一方的な電話攻撃に対して男性は、かなりご立腹な状況。

当の相手であるハービー氏が誰かなど知る由も無いが、その話しぶりから、男性とは親密な人物らしい事までは推察出来た。



その間、隣室の僕はと言えば、流石にラジオの「電リク」が如く鳴りまくる電話にウンザリしつつも、無視すべく努めて机に向かい勉強を続ける。

いや、それより二人の間に何かわだかまりがあるとして、ハービーさんとやら。
寂しいのは解るが、とにかく落ち着いてはくれないか。

それが素直な心境でもある。



「…プルルップルルルルッ…」



しかし、それでも鳴り止まない電話。
切ったそばから、ほんの数分後に再びかかって来る。



「プルルルルップッ…」


男性「おいっハービー!!もうかけてくるなって言っただろっ!!頼むから止めてくれ!!だーから会えないっつーの!!もう寝かせてくれっ!!いいかっ分かったかっ切るぞっ!!…クソッ!」



以下、同様のヤリトリが何度も(略)。



一体、ハービー氏の何がここまで突き動かしているのか。
皆目見当もつかないが、ちょっとやそっとでは収まりそうにない有り様だ。


当然、男性も相当にイラついていて、また電話が鳴ると今度は部屋を出て通路をウロウロしながら話し込んだりと、とにかく落ち着かない様子。


何しろ、これ程までのテレホンモンスターを相手に、むしろよく耐えている位だ。
着信拒否や電源を切らない辺りからして、もし無視する様な真似をした場合、恐らくは余計にややこしい事態になりかねないのだろう。

それこそ、仕事よりもハービー氏に対するストレスが肥大化する一方であろうし、その心労は想像に余りある。


そんな男性の心情を察していた時。
突如、僕の部屋のドアが。



「ガチャッッ」


僕「えっ…!?」


男性「あっ…!?あぁ、スマン」


「バタン…」



通路に出ていたはずの男性が、いきなり僕の部屋のドアを開けたのだ。

思わずお互い顔を見合せるが、彼は即座に気付いて軽く謝意を述べると、ドアを閉め自室に戻って行く。


現れた男性はバスローブ姿だったので、本当にこれから寝る態勢に入ろうとしている事が伺えた。

方や、鍵を閉めていなかった僕も無防備であり、呆気に取られたまま何も言えずにいた。


いずれにせよ、もはや僕の部屋と自分の部屋を間違う程にテンパッていたのだろう。
男性の表情や対応に余裕は無く、だいぶ憔悴している様に見えたのだった。


しかし、しかしである。



「…プルルップルルルルッ…」



それでもなお、鳴り止まない電話。



何だ、何が起きているのだ。

何なのだ、何がしたいのだ。

もはや常軌を逸している。

このままでは、一歩間違えればノイローゼになりかねない。

おかしいですよ、ハービーさん!



そんな、機動戦士Vガンダムのウッソ君みたいなセリフが脳裏を掠めると同時に、隣の男性が速攻で電話を取る。


「プルルップッ…」


「…なあ、ハービー…。よーく聞いてくれ…」



と、今度はそれまでと一転、静かに優しく開口する。



なるほど、一向に解決しない現状を打開すべく、別のアプローチへ変えたのか。

男性は一呼吸置きつつ、冷静かつジェントルに、事を穏便に運ぶ為に、きっと諭す様に語りかけるのだろうな。



と思われた、次の瞬間。




男性「ハービー…ユーーーーファッッッキンアァーーーースホォォォオォーーーーーーーーーールッッッ!!!!!」




遂に堪忍袋の緒が切れたか、男性の腹の底から吐き出された怒声が、部屋をまたぎ轟く。


それはまさに、感情の爆発。

驚きのあまり、僕の手も止まる。



直訳してズバリ、「ケツの穴野郎」。

イメージ 1



その瞬間を直接見た訳ではないので、上のイラストは想像図に過ぎません。

ただ、恐らく、きっと、気持ちの上ではこんな様相であったはず。


何故なら実際、アメリカで「オーマイゴッド」に代表される心理的な表現は、本気で感情が動いている時こそ出る発言だからです。
特に、侮辱のスラングが飛び出す時は尚更である。

無論、冗談半分で使われるシーンや、与太話でふざけて使う場合もあるにはあるのですが、まず滅多な事では「対人関係」において無闇に発しません。
また、要らぬ誤解を招く場合さえあるので、基本的に仲の良い友人同士のジョークですら使う事は稀です。

ネットの掲示板ならいざ知らず、リアルなコミュニケーションの場において憚られるのは日本と同じ。

つまり、それ位この発言は重みがあるのです。



確かに、男ならば、一発ガツンと言わねばならぬ時もありましょう。

それは何としても有無を言わせたい相手と対峙する場面において、致し方の無い方法かも知れません。



しかし、男性の怒髪衝天を突く魂からの叫びが文字通り、ハービー氏のケツメド深く木霊したのでしょう。



遂に彼女(又は彼)の心を突き動かしたのか、次の瞬間から電話はパタリと鳴り止む。



そして、以降は静寂が戻る事となり、僕は落ち着いて心置きなく勉強を続行出来るのであった。



これぞ、Let it go。


つまり、穴と(略)




おまけシリーズ。




冒頭で記した、勉強のテキストとして活用した書籍の一部をご紹介致します。



旅の指さし会話帳9 アメリカ英語(榎本年弥・著 情報センター出版局)

イメージ 2


こちらは、各シチュエーション毎の表現の殆どがイラストと共に記載されていて実際のシーンをイメージし易いだけでなく、更に、全ての会話における「発音方法」がフリガナの様に記されている超スグレモノ。
解説も丁寧で分かりやすい、非常にお薦めの一冊。

とにかく恥ずかしがらず、「音読」しまくるのが最大のコツです。


これに加えて、中学英語程度の「基礎文法」のテキストを持参し、この二冊をノートに書き取ったり音読したりを繰り返しておりました。

いや真面目な話、結局は何事も基礎があってこそだと再認識させられますし、でないと幾らハウツーを読んだ所で何も頭に入って来ないのだなぁと実感するばかりです。


とまぁ、偉そうに述べてはいますが、リアルな英会話は現地で一年以上きっちりトレーニングしない限り、ろくに通じないし聞き取れ無いのが現実です。

上記は自己流であるが故、付け焼き刃的な感覚は否めず、実践の場における僕の英語力はかなり低いのが正直な所。
しかし、それでも、やらないよりは遥かにマシになるのは間違いありません。


そんな経験から、こんな身でもアドバイス出来る事があるとして、もし、旅先での英語力にお困りの方がいらっしゃるならば。

上記の様に「基礎」と「シチュエーション用」のテキストを駆使して、「読む」「書く」「話す」を繰り返して覚えれば、英語の通じる場所での行動がだいぶ楽になるのは確実です。

難題の「聞く」については、結果的に馴れと場数あるのみですが、自分から口に出して「喋る」内に次第と発音のコツが掴めてくるはず。


何れにしましても、このメリケン道中記があるのは、こちらの指南書があったお陰なので御座います。
本当にお世話になりました。



では、また、CUL。